横木真建築設計事務所
Yokogi Architecture Design Office
出西のベーカリーカフェ(ル コションドール 出西)
「暮らしのアイディアを発信する場」
全国的に知られた民藝の窯元「出西窯」が暮らしのアイディアを発信する新たな場所、としてのベーカリーカフェの計画です。
出西窯は昭和22年に地元の5人の若者によって始まった民藝の窯元であり、「用の美」の精神に基づき、日常を彩る健全で美しい暮らしの器を作り続けています。
食文化が多用化する現代の暮らしの中で民藝の器がどのように使われ、毎日が心豊かに過ごせる道具としてあり続けられるか。
その実践の場、提案の場として、「出西窯」と「Le cochond’or(ル・コションドール)」がともに暮らしのアイディアを発信するための、現代的な空間が求められました。
「出雲平野の集落の風景」
敷地は出西窯の工房の裏手にあり、周辺には瓦葺きの切妻屋根を持つ家々が点在する出雲平野の田園風景が拡がっています。出西窯の工房や売り場の建物も蔵を改修や移築したもので、切妻屋根が連なる集落の風景を作り出しています。
計画建物は現代的な空間を求められていましたが、同時に周辺の風景にも調和し、集落のこれまでの歴史を引き継いていくものにしなければいけないと感じました。
「周辺建物のドレスコード」
まずは出西窯の建物の調査を行いました。
「素材(マテリアル)」「形態(フォーム)」「形式(ルール)」の3つのカテゴリーにおいて、周辺建物のコードを読み取り、風景を作り出す要素を抽出。
そして、これらのコードを新たな建物にも採用しました。
ただ、採用する際に、使い方、大きさ、使う場所などを意図的に変えることで、また、より抽象化して採用することで、周辺建物の特徴を引き継ぎながらも、単なる焼き増しではない新しさを感じられるよう目指しました。
建物は2層のカフェ棟と平屋のベーカリー棟の2つの「切妻屋根」をもつ建物が「連なった」ような外観となっています。カフェ棟は「黒く染色した杉板」,ベーカリー棟は「白い左官壁」の「2色の外壁」。
2つの棟の隙間が「下屋」となっており、共通のエントランスとなっています。
カフェ棟は南側に「吹き抜け」を設け、妻側の中心に2層にわたる大きな「出窓」を設けました。この窓は陶器の売場建物(無自性館)の大きな窓と向かい合い、それぞれの建物を見合う関係となっています。2階はスキップフロアになっており、どの席からも向かいの建物や山々、田園風景を眺めることができます。
ベーカリー棟はプラスター塗りのR型のカウンターやアンティークのテーブルに様々な種類のパンが並べられます。
横長の窓からは厨房の様子を伺うことができます。
南側には大きなエントランステラスを設け、人々を迎えるとともに、テラスで食事することもできます。
民藝の器、版画や面、藍染の布などの民藝品がシンプルな空間を彩ります。
器や民藝品、そこでの暮らしの提案が主役となるよう、建物はそれらの背景となるよう意識しました。
出西窯が70年かけて作ってきた風景、暮らしへの思いを継承しながら、次の70年への始まりの場となることを目指しました。
ル コションドール出西
出雲市斐川町出西3368